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判例に思う
サトウの切り餅事件-その1-
上下面ではなく側面に溝を設けた、の解釈を争ったサトウの切り餅事件 -その1-
概要
サトウの切り餅事件とは、切り餅に入った「切り込み」の特許をめぐる訴訟事件です。
切り餅の側面に切り込みを入れる技術の特許を保有する越後製菓が、側面だけでなく上下面にも切り込みを入れる佐藤食品の「サトウの切り餅」が特許を侵害するとして訴訟を起こした事件です。
争点のポイント
今回、主に争点となった、越後製菓の特許請求の範囲は以下になります。
【請求項1】焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,(以下略)
このうち、特に問題となった部分が、太字の「載置底面又は平坦上面ではなく(中略)側周表面に、(中略)切り込み部又は溝部を設け」でした。
越後製菓は、切り餅の上面や底面には切り込みを設けても設けなくてもよく、側面に切り込みが入っていることが越後製菓の持つ特許の特徴であり、サトウの切り餅は、越後製菓の特許を侵害していると主張しました。
サトウ食品は、越後製菓の特許は、上面や底面には切り込みを入れず、側面のみに切り込みを入れたもので、上下面と側面に切り込みが入ったサトウの切り餅は、侵害していないと主張したのです。
1審の東京地裁では、越後製菓の特許は、上下面に切り込みがないことも特徴であり、切り込みは側面に限られるとし、上下面にも切込みを入れるサトウ食品の特許とは別であり、サトウ食品は越後製菓の特許権を侵害してはいない、との判決を出しました。
一方、知財高裁では、「側面に切り込みを設けること」だけに特徴があると判断し、1審の判決を覆し、サトウ食品が越後製菓の特許を侵害していると判決を下し、越後製菓側の逆転勝訴なりました。
見方
この事件を、「文章の読点(、)の位置の問題なので、気をつけましょう」との教訓とすることもできるかもしれません。
しかし、そもそも「上面ではなく」という否定的な文言をいれる場合は、十分な配慮が必要であるという点にも注目してみてください。
一般に、特許請求の範囲では、「~ではなく」という文言をいれるのはあまり好ましくはありませんが、実際問題として入れざるを得ない場合も数多くあるのが実情です。実際にそのような表現でなければ発明を表現できない場合や、発明者の意向(従来技術との違いを強調したい等)もあります。
しかし、やはり「~ではない」という文言は、読点「、」の位置によって読み間違いや勘違い、疑問を生じやすいのも事実ですので、そのような表現をとる場合は、十分にその意義を説明しておくと共に、本当にその表現が必要なのか否か今一度検討してみるのも大切です。
また、もし事情が許せば、「~ではなく」という表現を使用しない請求項も(つまり、単に「側面に設けた」だけの請求項も)念のため設けておくことができれば良いでしょう。
参考
平成21年(ワ)第7718号特許権侵害差止等請求事件
東京地裁 平成22年11月30日判決
平成23年(ネ)第10002号 特許権侵害差止等請求控訴事件
知財高裁 平成23年9月7日 中間判決